今回は、ややテクニック寄りのお話です。
TD(トラックダウン:録音された各楽器や歌などの音を調整、ミックスする作業)においてミックスエンジニアさんは様々な機材やテクニックを使うのですが、中でも歌のエモーショナルな部分には特に時間を掛けます。
ここぞという場所でフェーダーで突いたり(音量を上げる)引いたり(音量を下げる)ことによって他のトラックに埋もれたり浮いたりせず、かつ歌詞や歌の表情を豊かにすることで聴いている人により自然に伝わるようにするのです。
もちろん全ての箇所で行っているわけではありません。
必要な場所で、必要なだけ。
そもそも歌を録る段階でボーカリストがしっかりと表現しているわけですから、あくまでもほんの少し添えてあげる程度。
そしてその「ほんの少し」がピリリと効いて良い作品に繋がっていくわけですね。
録音時に入るレコーディングエンジニアさんの中には、歌録りのときにこの作業を同時にする方もいます。
今はデジタル制御が可能になったのでフェーダー情報を記録させることもできるのですが、昔ながらのやり方だとフェーダーを上げ下げした後の「結果の音」を直接録音します。
つまりやり直しが出来ないので、エンジニアさんのスキルがそのまま反映されるわけです。
これはその曲全体、メロディーと歌詞の関係、そして当然ボーカリストの歌の持ち味・癖までもをしっかりと把握していなければ出来ないシビアでデリケートなお仕事。
最近ではTD前提で録りの段階では触らないという風潮なのかこの光景はあまり見なくなった気がしますが、僕の周りだけかな…?
さて、実はここまでは長い前振り。
僕はライブマニピュレーターとしてサポートに入る時、これと同じようなことを自分が出す音に対してやっております。
例えば次の曲の最初が僕の音からスタートだったとして、前の曲が終わったときのお客さんの反応がもの凄い声援や拍手だった場合は通常の音量だと負けてしまって曲が始まったことが伝わらないので最初だけドンと音量を突いたりします。
ただしそのままだとお客さんが気づいて拍手が引いて静まったあとはうるさいだけになってしまうので、その状況の変化と共に元の音量に戻していきます。
同じように、イントロのシンセのこのフレーズがキモ!…だけども全部が全部大きいと「音の面積」が大きいだけになってしまうような場合はフレーズの頭だけ突いてお客さんの耳をそこに注目させ、そこからすっと引いてやることによって残りのフレーズに耳を追わせるといったこともやります。
周りがうるさい中でも誰かと話をするときはそこに意識を向けることによって会話が成り立つのと同じ現象を利用しているわけですね。
ここで気をつけなくてはいけないのは、最終的な各楽器・歌のバランスを作っているPAエンジニアの方も同様のことを行う場合があるということ。
基本的にはメイン(主にボーカルだったり、ギターソロだったり)を追いかけているので曲中のシーケンスの細かいところまでは触らない…というかそんな暇はないはずなので「やっていることが被る」ことはありませんが、曲の頭やテーマ的なパートとなると実際の正解=会場のお客さん側で音を聞いているエンジニアさんが同じように「ここは…」と思うのは理の当然。
なので、お互いが同じことをやってびっくりするくらい大きくなってしまった!ということがないように、事前にしっかりと打ち合わせをするようにしています。
そしてそれには先述のエンジニアさんに関してのお話で触れたのと同じ、曲に対する深い理解が必要となります。
データというデジタルなものを扱うセクションでありながら僕が仕込みに長い時間を掛けたり、急に入ったライブサポートに苦戦する理由もそこにあります。
データの仕込み自体の時間はしれたものですが、楽曲の意味や歌とバックトラック・生音のバンドとシーケンスの関係を身体に入れないと本来の曲の良さを引き出せないと考えているからです。
ただボタンを押して再生させるのなら誰でも出来ます。
僕はこの「音楽として成立させる」ところにマニピュレーターとして呼ばれていると思っているので、バンドメンバーが自分のパートを覚えるのと同じくらい丁寧に時間を掛けます。
これはプレイヤーの意識を持って挑まないとダメなんじゃないかなと思っている部分です。
さて、こういったプログラミングでは予想が難しい状況に柔軟に対応できるように僕は大きなミキサーを持ち込んでいるのですが、多分そのせいもあって「マニピュレーター=PAエンジニア」という誤解を生んでいるのかもしれませんね ^^;
では何故ミキサーが必要かというと…(次回に続く!)
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