今回はさらに突っ込んでライブマニピュレーターのプレイスタイルについて。
どちらかというと同じ職種の人との情報交換的な内容になりますので、その辺りご了承ください。
僕のマニピュレーションのスタイルは「セッション型」。
これだけだとライブなんだから当たり前って感じなんですが、マニピュレーターはその人によってシステムやプレイスタイルが違うので、実はそれぞれに個性があります。
昨日までのエントリーを読んで頂けたのならば「マニピュレーターはいろんな音を扱う人」ということはなんとなく分かってもらえたのではないかと思います。
かなり乱暴に音の流れを書くとすれば「シーケンスデータ → PA」これが全てになるのですが、この"→"の部分にマニピュレーターの個性が反映されます。
わりとベーシックなケースだと「ProTools & オーディオインターフェイス → ミキサー → PA」で、ミキサーを噛ませずにダイレクトに送ったり、二台のProTools(片方はバックアップ)をSyncさせてRadial SW8に信号をまとめることで片方のHDDが止まってしまったときのトラブル対策をしたりする場合もあります。
音の出元がAlesis ADAT HDなどのHDRの場合もありますが、事前流し込みや編集用に母体となるPCシステムは必須です。
オーディオインターフェイスからダイレクトにPAへ送る、あるいはミキサーを噛ませる場合でもライブ中はフェーダーなどの操作を行わずにシーケンスデータを流すのみというスタイルがあるというのは前回も書いた通り。
その場合は事前にしっかりと予想を立てて音作りをしてPAチームにその先を委ねるというやり方になりますが、僕はある程度地ならしをした上でリアルタイムにセッションしていくタイプです。
僕のシステムのPCソフトはStudio One 2で、これをリハーサルなどでの編集用&本番での緊急時の対応策用として使っています。
そして実際に本番時に使うメイン機材はStudio Oneから流し込んだADAT HDを使い、それをBEHRINGER X32の表チャンネル(1〜16ch)、同内容のPCシステムの音(Studio One)を裏チャンネル(17〜32ch)に立ち上げます。
リハーサルの時は「サビ前からスタート」などといった特定の場所から始めたり各トラックのバランス決め、テンポやサイズの変更の可能性もあるので裏チャンネルを生かしてStudio Oneを使い、もし変更箇所があれば本番までの間にADATに流しこみを行います。
つまり本番時にはある程度のバランスは決め打ちされていることになるのですが、その後の対応が出来るように卓上には何系統かに分けて立ち上げます(前々回を参照)。
僕がADATを使うのには理由があります。
一番は信頼性、安定性。
ある程度のエディット機能もありますが、基本的には「録音・再生するだけ」の専用機材ですのでその信頼性は高い。
少なくとも僕は一度もトラブルにあったことがありません。
パソコンは便利でいろいろなことが出来ますが、その反面環境を安定させるのにとても神経を使いますし、トラブル要素は専用機材より多いと感じます。
僕はライブに使うソフトは最低半年以上使ってみて、その善し悪しを把握してからライブ現場に投入するようにしています。
ソフトのバージョンが0.01上がったとしてもそれにバグがないとも限りませんから、長期間検証して自身が責任が持てると判断できるまでは以前のバージョンを使ったりもします。
さて、ここからが僕のやり方です。
ライブ本番中はADATを回して進行していきますが、同時に自分のイヤモニ内で裏チャンネルのStudio Oneの音を聞きながら手動で合わせて行きます。
仮にADATがトラブルを起こして止まってしまった場合はアサインしたDCAフェーダーを使って瞬時にスイッチします。
この辺り、本当ならSyncをかけるべきなのですが残念ながらStudio OneにはSync機能が皆無(!)なので割り切っている部分です。
この、裏チャンネルを使ってシーケンサーを走らせる意味はトラブル対策のバックアップ以外にもあります。
むしろ、そちらに重きを置いてのやり方と言えます。
『曲のサイズを間違えてしまった!』
どれだけ綿密にリハーサルをしていても、時としてこういった事態に陥ることがあるかもしれません。
特に循環進行をメインに構築されたR&Bであったり、最後のサビやアウトロの回しが何周もあるような場合(ライブアレンジでサイズが伸びるケースはよくあります)、ボーカルやバンドがうっかり次への展開を忘れてしまったり逆に一周飛ばして先へ進んでしまう可能性がないとは言えません。
もしくはお客さんの盛り上がりがいい感じ過ぎて、やっぱりもう一回サビに戻ろうぜ!というのもライブならではの自然な心の動きでしょう。
そういった場合、生演奏であるバンドはボーカルに付いていけますが、シーケンサーは決まったものが順次再生されていくわけですから困ったことになるわけです。
普通、演者は「シーケンサーとはそういうものだから」という理由でその場のノリで変えることはせずに決められた通りに進行していきます。
僕は以前からここにやきもきしていました。
機械だから決まったことしかできない、というのはライブの面白みの一部を失わせるのではないかと。
そこで裏でシーケンサーを走らせることにしました。
そうすることによってサイズが変わってもその場で対応し、必要に応じてスイッチすれば良いからです。
その昔、こんなことがありました。
大サビが終わってブレイクし、2拍後から歌きっかけでサビへ入るという場所で、3拍後から歌が入ってきたのです。
つまり1拍ずれているので結果として歌に対してシーケンスの音が1拍早く始まってしまう状況になりました。
そこで僕はメインをミュートして裏のシーケンサーを1拍後ろにずらしてスイッチ、事なきを得ました。
別のケースでは、ワンハーフ(二番をカットしたショートバージョン)の曲なのに「フルサイズでお届けします!」とボーカルの方が言って曲が始まったことがありました。
この時もメインを流しながら裏でフルサイズのデータを急いで作って1サビ終わりでスイッチ、本来は無かったはずの間奏から二番へ…という冷や汗ものの展開でしたが上手くいきました。
これらは別に、僕は凄いんだぜ!と自慢したいわけではありません。
「看板(メインとなるアーティスト)が言うこと・やることに嘘があってはいけない」という、ごく当たり前のことに応えるための方法であり、すなわちそれがセッション・マニピュレーターであると考えているからです。
そのため、本番中は常にメイン機材のトラブルを始めとした各種の「If」を考えながら挑んでいます。
バックバンド、フロントメンバーの一挙一動にも神経を研ぎ澄まさないといけません。
当然、曲の構成や抑えるべきポイントを把握しておかないとフォローが遅れてしまうので、特に新曲など慣れていない曲に対してはとにかく時間を掛けて身体に入れるようにします。
決まったサイズはなくてきっかけで次の進行へ移るという、いわゆる「Xタイム」にもシーケンサーは有効です。
この場合はXタイムになる部分をループさせておき、きっかけで解除すれば問題なく進行できます。
最近では頻度が減ってきましたが、ゴスペラーズではお客さんにハモリのパートを教えて会場のみんなでハモるという「なりきりゴスペラーズ」というセクションが曲中に登場することがあります。
この時もメンバーがお客さんに教えて全体が完成するまでの間はずっとループさせておき、きっかけ(リーダーからの振りであったり、きっかけのセリフであったり)でループ解除→最高潮の盛り上がりの中で次のセクションへ突入!という感じです。
以前にTwitterか何かで「イコールではないけど、DJに近いアプローチをしている」と書いたことがあるのですが、なんとなくお分かり頂けましたでしょうか?
僕はオンステージになることは滅多にありませんが、どの場所でプレイしていても一緒に演奏している気持ちで身体を動かします。
見切れている場所などでやっていた場合、それを見たお客さんから「ノリノリでしたね」と言われますが、心と身体をステージ上の人たちとシンクロさせているので当然なわけですね〜。
それに仏頂面で椅子に座っているよりも一緒に楽しんで"プレイ"するほうが音を出す者のテンションとしては自然だと思うのです。
ゴスペラーズではソウルステップを踏むし(まぁ僕は下手なんですが)、BABYMETALではヘドバンかます(足を踏ん張ることが多いので大体翌日は筋肉痛)。
ごくごく自然、だと思ってます。
なぜなら、ライブは五感をフルに使って楽しむ娯楽ですから!
それが例えばクラシックだとしても「身体をリラックスさせて音に感じ入る」というムーブがあるわけですから、音楽はなんと楽しいことでしょう。
心はいつもオンステージ、なのであります。